2011年1月のアーカイブ

(前回からの続き)  

 それでは損をしたくないという思いの方が強い人や「失うと困る資金」はどのように運用すればいいのでしょうか。投機的な行為の最大の問題点は、大きなリターンを狙っての「まとめ買い」にあります。まとめ買いするからこそ、一か八かで思惑とは異なった値動きになると大きなマイナスを被ってしまうわけです。私たちFPがお客様にお薦めするスタイルは「分散投資」が基本となっています。それは相談に来られるお客様のほとんどが、「儲けたいとは思うが、それよりも損をしたくないと思う気持ちのほうが強い一般的な生活者」だからです。分散投資を行うのは、前回お話しした「リスクのコントロール」を行うためです。リスクのコントロールに必要なのは「勘と度胸と祈り」とは対極ともいえる「理性と忍耐と科学」になります。

 

 私たちがお薦めする「長期国際分散投資」は、ある意味で面白味のない運用といえるでしょう。ある程度のメンテナンスは必要となりますが、基本的にはいろいろな商品を長く持っているだけで、求められるのは「理性と忍耐」なわけですから、値動きがあることでハラハラ・ドキドキしたいというような人や投資が趣味の人、株価や為替レートを1日に何回も確認するような人にとっては、退屈でつまらない運用スタイルに見えてもしかたないと思います。

 

 「資金運用」というのはお金を働かせることを意味します。働く、つまり仕事なわけで、給料に当たるリターンを得るためには面白いとばかりは言っていられないということだと思います。一方、趣味にはコストがかかるのが一般的です。趣味的な投資を行うのであれば、ある程度の出費(損失)は覚悟しておく必要があると思っておいた方がいいでしょう。

 

 さて、私たちはなぜ長期投資をお薦めするのでしょうか。一般的に、値動きのある商品の値段はさまざまな市場(マーケット)で決まります。マーケットには多くのプロ(証券会社や金融機関、機関投資家、投資信託などを運用するファンドマネージャーなど)が参加しています。短期間でリターンを得ようとすればするほど、プロに打ち勝たねばならなくなってしまいます。たとえば為替取引を行っている人の全員が短期的な利益を求めるデイトレーダーだったと仮定してみましょう。全員が儲けているということはありえませんよね、誰かが儲かったということは、誰か損している人がいるはずなのです。

 

 マーケットでの短期売買で、個人投資家がプロに勝つのはなかなか難しいでしょう。短期売買での勝敗を分ける要因といえるのが、情報量、情報の分析力、資金量、そして運といったものだからです。前の3つはプロの方が優位、ということになると個人投資家はどうしても「運頼み」となってしまいがちです。

 

 しかし、長期投資ならば個人投資家がプロに打ち勝つ、あるいはプロと共に勝者となることも難しくなくなります。なぜなら個人投資家には、ほとんどのプロが持っていない「時間」という武器があるからです。この武器を活かして、将来価値を増しそうなもの、時期はわからないがいつかは値上がりしそうなものに、余裕資金で前もって投資しておけばいいわけです。

 

 「投資」というのは「資(資産、財産、価値あるもの)に投げる」と書きます。つまり将来価値が上がりそうなものを捜すことが重要なのです。「今なら何が」ばかり考えているとどうしても投機的な行為につながりがちです。もう少し長い目で見て、「将来有望そうなものに自分の資金と時間を与える」というスタンスで投資対象を捜すことが、投資の本質だろうと思います。

 第1回目に「リスク」の意味についてお話ししたのですが、リスクを「損すること、危ないこと」と思い込んでいる方が多いためか、どうも投機的な行為を投資だと勘違いしているケースも多いようです。たしかに、「儲けるために損を覚悟しなければならない」ということであれば、バクチに似た行為と考える人がいても不思議ではありませんね。

 

 儲けよう、つまり大きなリターンを狙おうとすると、どんな行動をとることになるでしょう。「過去のデータを分析し、将来の相場の方向性を予想する。そしてどこかの時点で一番有望と思えるものをまとめ買いする」といったところでしょうか。何よりも重要なのは相場勘とタイミングということになります。「投機」というのは「機(機会、タイミング)に投げる」と書きますが、往々にしてこのようなまとめ買いは投機的な行為になってしまいがちです。

 

 なぜなら、行っていることをつきつめると、「勘と度胸でまとめ買い」ということになるからです。「親の遺言でやるなと言われる株式投資」は、こんな投機的な行為を指すのだと思います。狙うべきはブレが大きそうな商品や、FXなどのようにレバレッジをかけることで人為的にブレ幅を大きくできる商品ということになり、できるだけ短期間で値上がりしそうなものを捜そうとしがちです。そして、買った後は、株価が気になってしかたなく、時には「祈り」たくもなるでしょう。

 

 もちろんそれがうまくいくこともありますし、覚悟の上での勝負というのを否定するつもりは全くないのですが、「儲けたいとは思うが、それよりも損をしたくないと思う気持ちの方が強い、一般的な生活者」にはお薦めできません。特に退職金のように「失うと困る資金」については、「勘と度胸と祈り」に頼るこんな運用スタイルは御法度といえるでしょう。

 

(つづく) 

 

株式投資を行っている人とお話ししていてよく感じることとして、同じ「株式投資」という言葉を使っていても、その意味するものは大きく3タイプに分かれている、ということがあります。

一つ目は、510年以上の運用期間を考える場合の「資産形成」や、インフレを意識した「資産保全」のための株式投資で、われわれFPが最も得意とするスタイルです。投資対象である"株式=企業"に時間を与え、企業の成長を待ってリターンを得ようという考え方で、ROEなどを参考にしながら、将来大きな成長が期待できる"成長株"を投資対象として銘柄選択を行うことになります。株式投信ならば、"中小型株ファンド"や"グロース型ファンド"を選ぶことになるでしょう。

二つ目は、12ヶ月~1年程度の運用期間を考える場合の「資産運用」のための株式投資です。1ヶ月とか1年という期間で企業が大きく成長することはなかなか難しいですから、ほかの銘柄よりも割安と考えられる"割安株"を探して、保有している間に値段が見直されるのを待つといった、逆張りの発想で銘柄を選択することになります。当然、株価の水準が問題になりますから、PERやPBRなどの投資指標でスクリーニングを行った上で、チャートとにらめっこという方法をとることになるでしょう。株式評論家の方々が頼りにされることが多い投資スタイルといえます。

そして最後が、一週間から長くても一ヶ月、できればその日のうちに儲けたいというスタンスの、「投機」のための株式投資です。この場合には、どうしても投資指標や企業の内容などは二の次になりがちで、とりあえず現在値上がり中の銘柄(注目株)を選択して、利益を確保できたら早めに売却するという、順張りの発想で投資銘柄を探すことが多くなります。一般的に、証券会社の営業マンが推奨する銘柄には、このタイプのものが多いといえます。

 

「株式投資」の3タイプのうち、どのスタンスの株式投資がよくて、どのスタンスがいけないということはないのですが、問題なのは、投資家本人が「自分はどのスタンスで銘柄を選んでいるか」を正しく認識していない場合が非常に多いということです。実は、どのスタンスで投資しているのかによって、アドバイスを求めるべき相手は異なるのです。FPと株式評論家と証券マンでは、それぞれが異なるスタンスで「有望銘柄」を薦めていると思っていたほうが間違いが起こりにくいでしょう。

また、保有銘柄が値上がりや値下がりした場合の対処方法も全く異なってきます。たとえば、購入した銘柄が、買ったとたんに大きく値下がりしてしまったとします。もしも「投機」のスタンスで買っていたのならば、時間をおかずに「損切りする」というのが、多くの場合、正解になります。「資産運用」のスタンスなら、本当に割安という判断が間違っていないかどうかを確認した上で、しばらくは様子を見るということになるでしょう。しかし、「資産形成」のスタンスならば、その企業の成長性を再確認した上で、喜んで買い増すというのが、一般的にはとるべき行動となります。同様に、値上がり時の対応もそれぞれのスタンスで異なるため、それらを混同してしまっていると、せっかくの利益を得る機会を逃すだけでなく、大切な財産を失うことにもつながりかねません。

もちろん一人で3つのスタンスの投資すべてを同時に行うことも可能ですが、株式への投資を考えておられる方には、今一度、ご自分の投資スタンスをよく確認しておくことをお勧めしたいと思います。

 

 

 

 

 

 

 

 

 今日からブログをスタートすることになりました独立系FP(ファイナンシャル・プランナー)の神戸です。東京都千代田区の神保町という古本屋さんがたくさんある街で、FP専業の会社を経営しています。

 できるだけ長く続けられるように、あまり気張らず、自分のペースで更新していきたいと思っています。どうぞよろしくお願い致します。

 

 さて第1回目は、投資につきものの「リスク」についてお話ししたいと思います。公的機関や、証券会社などからのご依頼で、個人のお客さま向けの投資・運用セミナーでお話しさせて頂くことが多いのですが、投資における「リスク」を「損すること、危ないこと」と思い込んでいる方が大半だということに驚かされます。

 

 セミナーにわざわざ足を運んで参加されるわけですから、少なくとも投資に興味は持っておられるでしょう。それでもまだ実際に投資を行ったことはなく、銀行預金だけという人ならばわからないこともないのですが、株式や投資信託をすでに保有されている場合が多いようです。投資型の商品を窓口で購入していれば、ほとんどの場合、金融機関や証券会社の担当者から、「リスクとはブレること、不確実なことです」いう説明を受けているはずなのです。

 

 一般的に使われる「リスク」と投資における「リスク」では意味が異なります。その意味の違いをわかって頂くために、セミナーでは、こんな質問をしています。

 「タクシーが2台あります。1台は10回乗ると10回事故を起こすタクシー、もう1台は10回乗ると1回事故を起こすタクシーです。どちらがリスクが高いと思いますか?」

 ほとんどの方が10回起こす方と答えます。そりゃそうですね、明らかに危ないのは10回とも事故るタクシーです。ところが、投資の世界では、10回乗って10回とも事故るタクシーのリスクは0(ゼロ)なのです。だって「必ず」事故るわけですよね、決まっていてブレがありません。実は、投資の世界では10回乗って1回事故を起こすタクシーの方がリスクが高いということになるのです。

 

 「リスクとリターンは裏腹だ」というのは、ブレが小さいものはリターン(もうけ)も小さい。高めのリターンが欲しければ、ブレもそこそこ大きくなるということを意味しているわけです。投資の世界では、銀行預金や個人向け国債を「無リスク資産」と呼ぶことがありますが、これはブレ、つまり値動きが無い資産ということで、損をしない資産ということではありません。定期預金を高く売ってもうかったと言う話は聞きませんよね。それは定期預金には値動きがないため、利息収入はありますが、もうけ(リターン)も発生しようがないからです。ブレ(値動き)があるからこそ、安く買って高く売ることでリターンが得られる、これが「リスクとリターンは裏腹」という言葉が意味するところです。

 

 タクシーの話に戻りますが、10回乗ると1回事故が起こるという場合の事故率は10%です。この事故率は、車の整備をキチンとやったり、運転手への指導を行うことで、ゼロにはできないかもしれませんが、ある程度下げていくことが可能でしょう。投資の世界でも、それと同じように、努力することでブレを小さくしていくことが可能です。これを「リスクのコントロール」といいます。